前回は隣接行列を拡張した人口の移動の行列を紹介した.今回は前回までの仮定から,人口は未来にどうなるかを予想してみる.
まず,計算する前にいくつかの仮説を立て,それについて考えてみよう.私が数学で楽しいのはいろいろ予想してそれを後で確かめることである.思った通りになると楽しい.
一つ確実なことは総人口は 1000 人のままということである.これは誰も生まれず,誰も死なず,全ての人々はどちらかの街にいる.という仮定から導かれる.
- 仮説1 Berlin に留まる人の割合(0.8)の方が Potsdam に留まる人の割合(0.7)よりも大きいので,いつかは全ての人が Berlin に移動する.
この仮説は残念ながら正しくないようだ.というのも,Berlin の人口が増加すると,その2割が Berlin から流出するので,900人の時には 180 人が Berlin から流出するが,Potsdam の人口は最初 100 人なので,その 3 割が Berlin に移ったとしても,30 人しか流出しない.実際,一年後と二年後の結果では Potsdam の人口が増加している.
- 仮説2 この二年の変化を見ていると,Potsdam の人口は\(100 \rightarrow 250 \rightarrow 325\) と推移してきた.しかし,ある時点で,Potsdam の人口が十分多くり,流出の割合も大きいことが効いてきて,Potsdam の人口が減少に転ずるであろう.そうすると,今度は Berlin の人口が多くなるのではないだろうか.これを繰り返すという人口の振動が発生するのではないだろうか.
この仮説が正しいかどうかちょっと計算してみよう.
octave:5> M^3 * p
637.50
362.50
octave:6> M^4 * p
618.75
381.25
octave:7> M^10 * p
600.29
399.71
octave:8> M^100 * p
600.00
400.00
どうやらある一定の値に近付いているようだ.100 年たつと Berlin に 600 人,Potsdam に 400 人で落ち着いてしまっている.これを図 11 に示す.
Figure 11: Population history of Berlin and Potsdam. |
最初 Berlin 1000 人, Potsdam 0 人だった人口は年数が経つにつれてBerlin 600 人, Potsdam 400 人に近づいていき変化しなくなる.
ここで途中の結果に小数点がでてきてしまった.人数が整数でないというのは,ありえないことだが,年間の移動割合がぴったり 2 割というようなことを仮定したので実際にはありえないことが起こってしまったのだ.しかしこれは無意味なことではない.たとえば,ある都市における人の移動率や出生率などは一年ではそんなに変化するものではないから,今年の移動率や出生率を来年のものとほぼ同じと仮定して未来の計画をたてるのはそんなに無意味なことではない.微分積分という分野ではより良い仮定を考えることができるが,ここではそこまで踏み込まないことにしよう.ここでの去年と同じという仮定には一次の近似という名前がついている.小数は,何ヶ月かBerlin にいて残りを Potsdam で過ごした人がいたというように考えることにしよう.
ところでこれは最初の人口の分布によって変化するのだろうか.つまりこれは matrix の性質なのか,matrix と初期状態の両方を合わせた性質なのだろうか.それを次回は見てみたい.
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