前回は隣接行列の拡張として Markov matrix を導入した.ここで具体的な Markov matrix \(M\) の例を以下のように考える.
\begin{eqnarray*} M &=& \left[ \begin{array}{cc} 0.8 & 0.3 \\ 0.2 & 0.7 \\ \end{array} \right] \end{eqnarray*} \(M\)の要素の意味を具体的に書くと,以下のようになる.
\begin{eqnarray*} M &=& \left[ \begin{array}{cc} \mbox{Stay Berlin} & \mbox{P $\rightarrow$ B} \\ \mbox{B $\rightarrow$ P} & \mbox{Stay Potsdam} \\ \end{array} \right] \end{eqnarray*}
ここで,\(\mbox{B $\rightarrow$ P}\) は Berlin から Potsdam に引っ越す人の割合,\(\mbox{P $\rightarrow$ B}\) は Potsdam から Berlin に引っ越す人の割合を示す.つまり,一年たって,Berlin に 8 割の人がそのまま Berlin に住み,2 割の人は Berlin から Potsdam に移動する.全ての人に関して考えているので,カラムは合計 1となるように(0.8 + 0.2 = 1.0) なっている.Potsdamの場合も同じである.7割の人は一年後も Potsdam に住み,3割の人がBerlin に引っ越す.この場合にも,カラムは合計 1 となっている.
「何割の人が移動する」ということを示す Matrix なので,要素は全て 0 以上であり,1 以下である.たとえば,マイナスの割合の人が移動するということはない.また,カラムの合計が 1 になることは既に見たが,それは住民全員を考えているからである.これが 1 を越えることがないのは,引っ越す人間の合計が住んでいる人の合計よりも多くなることはないからである.この行列では,今年の状態から来年の状態が完全に決定する.このような性質を持つ Matrix を Markov matrix と呼ぶ.
ここでちょっといろいろと予想してみたい.たとえば,最初に Berlin に 900人の人が住んでいて,Potsdam には 100 人の人が住んでいるとする.合計1000人の人がこの2つの街には常にいるとしよう.一年たったら,人口がどのように推移するか octave で計算してみる.
octave:29> M = [0.8 0.3; 0.2 0.7];
octave:30> p = [900 100]';
octave:31> M * p
750
250
二年後には次のようになる.
octave:32> M^2 * p
675
325
一年,二年,というのを考えてみたが,では,長い年経た後はどうなるであろうか,ちょっと考えてみたい.とはいえ,何故長い年月を考えるのか疑問に思う読者もいるだろう.長い年月の後というのはつまり未来はどうなるかということである.私はこれに興味がある.
多くの科学がそうであるのだが,知識を集める目的は「未来を知りたい」からである.数学が有用であるのは,数学が未来を知る助けになるからである.人間が未来を知りたいのは,それによって生き延びる可能性を広げてきたからではないかと私は思う.未来などどうでもよいという人々もいるだろうが,そういう人々で構成されている社会は滅ぶ可能性が高い.例えば,冬の食料を心配せずに消費してしまう人々はその年の冬に滅んでしまう.未来に備えて子供達を教育しない社会は発展する可能性が低いと思う.我々が長いこと生き延びてきたのは,未来に興味を持ち,それに対して備えることを学んだからであろう.そうでない人々は生きのびてこなかったので,結果として未来に興味を持つ人々が多いのは自然のように思う.
次回はこれまでの仮定から未来を予想してみよう.
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