Thursday, December 13, 2012

マルコフ行列の中の著者達: どの著者がもっとも人々に影響を与えたのか? (16)


Markov matrix

駅の接続関係の例では,自分がいた場所から,何度か電車を乗り継ぐことによってどの駅に到達できるかということが示された.隣接行列は駅間を電車で移動するという操作をしていると考えることができる.ここではもう少し単純化して,移動ということに着目してみよう.

Berlin の中心から S-Bahn で 40 分ほど離れた場所に Potsdam という街がある.街が近いので人の移動も多い.Berlin から Potsdam に引っ越す人もいればその逆もある.これらの街が接続されていると考えれば,隣接行列で示すと以下のようになる.
\begin{eqnarray*}  \left[   \begin{array}{cc}    1 & 1 \\    1 & 1 \\   \end{array}  \right] \end{eqnarray*}
一応この隣接グラフが何を接続しているかを示しておく.
\begin{eqnarray*} \begin{array}{ccc} & \mbox{Berlin} & \mbox{Potsdam} \\ \begin{array}{c} \\ \mbox{Berlin} \\ \mbox{Potsdam} \\ \end{array} & \left[ \begin{array}{c} 1 \\ 1 \\ \end{array} \right. & \left. \begin{array}{c} 1\\ 1\\ \end{array} \right] \end{array} \end{eqnarray*}
この行列では到達できるかどうかということだけだったので,どちらの街にも行けるし,どちらの街にも留まることができるという意味ではあまり面白い例ではない.しかし,これに人の移動の割合というものを入れてみよう.

人口を示すベクトルとして,以下を考える.
\begin{eqnarray*} \left[ \begin{array}{c} p_{b} \\ p_{p} \\ \end{array} \right] &=& \left[ \begin{array}{l} \mbox{Population of Berlin} \\ \mbox{Population of Potsdam} \\ \end{array} \right] \end{eqnarray*}
ここでは人口の変化を考えたいと思う.どの年を基準にしても良いのだが,例として2000年を基準にしよう.2000年を時間の起点とする.それを次のように書くことにする.ここで t は経過した年を示し,最初は 0 とする.
\begin{eqnarray*} \left[ \begin{array}{c} p_{b} \\ p_{p} \\ \end{array} \right]_{t=0} \end{eqnarray*}
ここで人口の変化を一年ごとに考える.すると時間 t は k 年後と k+1年後となる.この一年の人口の移動の関係を行列\(M\)で示す.
\begin{eqnarray*} \left[ \begin{array}{c} p_{b} \\ p_{p} \\ \end{array} \right]_{t=k+1} &=& M \left[ \begin{array}{c} p_{b} \\ p_{p} \\ \end{array} \right]_{t=k} \end{eqnarray*}
例を簡単にするために,移動の割合だけで人口は決まるとする.つまり,子供は生まれないし,人は死なないとする.そして人の移動はこの2つの街の間に限られるとする.また,移動の割合は毎年同じとする.

この仮定は大きな制限である.人口の移動の割合は毎年変化するだろうし,子供はもちろん生まれるだろう.また,Berlin から引っ越す人は全てPotsdam に行き,Potsdam から引っ越す人は全てBerlin に行くというのはまったく現実離れしている.しかし,街の数は Matrix の大きさを変化させることで世界中に対応できるし,人の移動以外の変動ももっと複雑なモデルにすることである程度対応はできる.ただ,ここで私が説明したいのは,正確な人口の予測ではなく,このMatrixの性質をどうやって調べるか,つまり解析する方法は何かであるので,できるだけ単純化した例で最初は考えたい.数学の応用を説明する際に,できるだけ良い例を選びたいのだが,複雑な例は説明するのが難しく,簡単な例は現実世界を反映するのが難しい.このように仮定があまりに現実離れしているということで,数学は現実には応用できないのではないかと考えてしまう人もいるのではないかと思う.ここでは,最初は簡単な例から出発し,原理がわかったところで,複雑なものに適用していきたい.

ちょっと前置きが長くなってしまった.人の移動と Matrix の話は次回へと続く.

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