8 歳の T 君が 7 について学んでいる.7 はどんな加算によって作られるかというものである.ここで利用している教材の一つは図 1 にあるような Zahlenhaus というものである.2つの部屋があり,それぞれに何人かがいる.全体で何人が一つの家にいますか? ということで加算というものを考えるものである.
Figure 1. Zahlenhaus: 7 = 4 + 3 |
Figure 2. Zahlenhaus: Questions |
- 7 = 3 + ?
- 7 = 4 + ?
のような問題(図2)があり,? を埋めるのである.T 君は上記の質問にはまったく問題なく答える.
しかし,次の質問がわからないという.
- 7 = 0 + ?
ところで,学ぶ時,何がわからないのかをわかっているというのはとてもやりやすい.私自身,数学の本を読んでいてどこでわからなくなったのかをみつけるのに苦労することがある.そしてわからない部分がわかれば道が見えることが多い.どこがわからないかわからないと,どこまで本を戻ればいいのか見当がつかないからである.
さて,Zahlenhaus に戻ろう.左の部屋には誰もいない.右の部屋には何人いる?と尋ねると,2 + 5 人とか3 + 4 人という.私はこれには困った.つまり,T 君は
- 7 = 0 + 2 + 5
と答えたのである,これは数学的にはまったく正しい.一つの部屋をまとめて数えなくてはいけない理由は特にないし,そういう仮定を明確に言ったわけではない.だいたい最初に 7 はいくつといくつ? というように聞いているのは練習の意味が強い.7 は 7 である.と答えて間違いはない.これはゲームだと思ってもらった方がいいかもしれない.
しかし,それぞれの部屋に一つだけ数字を割り当てるという暗黙のルールによって 7 = 0 + 2 + 5 は間違いとされる.Zahlenhaus には部屋が 3つないからである.もし,Zahlenhaus に部屋が 3つあれば,これは正しくなる.しかし,ある計算が部屋の数で間違いだったり正しかったりするのは逆に混乱するのではないだろうか?
私はよくチャールズ・ドジソン(ペンネーム: ルイス・キャロル)の本「鏡の国のアリス」を思い出す.
王とアリスが出あった時の会話である.(残念ながら日本語は no- の形を翻訳するのが難しいので英文をつけておく.)
「...その道を見よ,そしてわしに告げるがよい.もしそなたがどちらか片方でも見ることができたのであれば.」Zaehlenhause の片方の部屋には誰もいない.誰もいないということを記すにはどうするのか,人類は長い年月が必要だった.誰もいないということを 0 人がいると記すのは簡単なことなのだろうか.たとえば,0 人がいないということは,0人ではないということであるから誰かいることにはならないか.0 人はいる.ないということ(0人)がその部屋にある.もし,これが彼の問題であったらこれはなかなか難しい.しかし,話をしていくうちに 0 がそこにあるというのは問題ないらしいことがわかった.誰もいないということを記す方法として 0 を書くということがわかったのかどうかはわからないが,誰もいない部屋を機械的に 0 と呼ぶというのはよいらしい.
「道には誰もいないのが見えるわ.(I see nobody on the road.)」アリスは答えました.
「そなたのような目が持てたならな.」王はいらだったような声で言いました.「『誰もいない』のが見えるとな!(To be able to see Nobody!)」 [Quote 1]
では一つの部屋の人数を一つの数字で示すということが難しいのだろうか.「普通」一つの数にまとめられるだけまとめるのは,後に比較をするのが簡単だからである.1 + 1 + 1 + 1 + 1 + 1 + 1 と 1 + 1 + 1 + 1 + 1 + 1 とを比較する時,7 と 6 を比較するのでは 7 と 6 を比較する方が人間には簡単である.だから0+ x を x と書くのが「普通」である.「普通」なのはある機能として簡単になるからである.「普通」というものと「正しい」というのは時に異なり,「正しい」かどうかの方が数学では重要である.
私は思った.またアリスだ.私はアリスほど数学的な本はないと友人に説明しようとしたことがある.
アリスが白の女王に尋ねられる.「足し算はできるかえ?一たす一たす一たす一たす一たす一たす一たす一たす一たす一たすは何だい?」どんどん分解していくと,白の女王の問題になってしまう.しかし,ある意味白の女王は正しい.どんな自然数も1の足し算でできているのだ.それをなんとか説明できないものだろうかと思った.
「わからないわ,何回一と言ったのか聞き逃したの」とアリスは答えました.
「この子は足し算ができないね.」赤の女王が割り込んで言いました.「引き算はどうだい.8から9を引いたらいくつかえ?」
「8から9は引けないわ.あたりまえでしょう」アリスはすばやく答えました.「でも...」
「この子は引き算もできないね.」白の女王が言いました.「割り算はどうかね.パンをナイフで割ったらどうなるかね?」 [Quote 2]
私は T 君に,2 ユーロのアイスを買いたい時,1 ユーロ持っていたらいくら母親にねだるんかを尋ねた.すると,1 ユーロと答えた.では,1 ユーロも持っていなかったら? つまり 0 ユーロ持っている時は,彼は 2 ユーロと答えた.それでは 7 ユーロ欲しい時,なにも持っていない,つまり 0 ユーロ持っている時は?と尋ねるとやはりわからないという.では 1 ユーロ持っている時は,6 ユーロと答えた.つまり以下が T 君の理解である.
- 2 = 1 + 1
- 2 = 0 + 2
- 7 = 1 + 6
- 7 = 0 + ? わからない.
私は困ってしまった.T 君はどういうモデルでこのような答えを出すのだろうか?結局,
- 1 ユーロ欲しい時,1 ユーロ欲しいと言う.わかった.
- 2 ユーロ欲しい時,2 ユーロ欲しいと言う.わかった.
- 3 ユーロ欲しい時,3 ユーロ欲しいと言う.わかった.
- では,7 ユーロ欲しい時は? 7 ユーロ欲しいと言う.ついにわかった.
T 君はこの後いくつかの 0 + x の質問に正しく答えたのであるが,今回私は彼が何をわかっていなかったのかわからなかった.だからこれで良いのかちょっと心配である.ところで,もしいつか数学を仕事に使う時があなたに来たら,その時あなたは数字を使うことはないだろう.現在,数字はコンピュータのものである.
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