C 嬢は三ヶ月前には一桁の足し算を練習していた.一桁の足し算は良いとしても二桁になるとなかなか難しい.ところが次の週になると同じ問題を一瞥しただけで ``Geht's nicht (できない)'' と投げ出してしまうのだ.それが一ヶ月以上続いた.なかなか難しいなと思った. 私は「数学は言葉であり,人の意思の反映の一つである.というようなことは今はわからなくてもいいけど,でも,式には皆意味があるのだ.3+4はどういう意味なのだろうか.」というような話を毎回した.ある時は図を使って,ある時はブロックを使って話をした.彼女はそんなことよりも宿題の答を教えて欲しいと泣くこともあった.私は「答は重要じゃない.わかったかどうかが重要なのだ.」という話をした.しかし,まあ,彼女にはそれはどうでもいいことで,宿題をしていかないと明日が困るということだった.どうやらこの子の学校の先生は,Hasenschule が宿題を助けてくれることを期待しているらしく,そういう意味では,私は学校の期待に応えない役立たずであった.しかし,私には宿題の答えが書かれているかどうかなどはどうでもよく,この子が一つでも何か理解できるかが重要と思っていた.ある時,この子は私の教室から抜け出して他の先生に宿題を助けてもらっていたこともあった. この子はもう二年もこんな調子だったそうである.ところが,ここ二三週間の進捗には私は驚いた.先週は私達は三桁の引き算を勉強した.一桁の足し算とは話が違う.802-456 というようなものである.最初彼女は,2 から 6 引くことは``Geht's nicht'' と言ったので,難しいかなと思ったのであるが,彼女は 5 の下に 1 を置いて,12-6は 6 と言ったのだ.私それでは後で困るぞ,と思ってみていた.私は彼女が, 802 - 456 = 800 + 12 - (450 + 6) ... (1) のように計算しようとしているのだと思ったのだ.これは, 802 - 456 = 790 + 12 - (450 + 6) ... (2) でなくてはいけない.したがって私は彼女が間違えると考えた.しかし,実は彼女は 802 - 456 = 800 + 12 - (450 + ...